何故か金太郎温泉

二人で伊豆に行って日帰り温泉にも入るが、メインが実家の支援・ノルマモードなのでそうそう楽しめるわけではない。コロナの閉塞感にたまりかねて、三回目のワクチンを打った妻は富山へ一泊旅行。徒歩、バスメインの行程なので足腰の調子の悪い私はお留守番。

江戸時代の「講」は村のみんなでお金を貯めて、代表がお伊勢参りをしたり富士登山をしたりして、その話を聞いたりお土産をもらったりだったとのこと。そんな感じの、妻による旅の記録。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 
 それは「大人の休日俱楽部」の手帳に移動経路を書き込むことから始まった。
「これでいいのかどうか・・」と気弱なことを言いながら「みどりの窓口」の係員に差し出す。相手は中学生に見えるくらい若い。その彼は「どれどれ」といった感じで手帖を開いた。

 彼の手によって、様々な間違いが赤字で書き加えられていった。毎回思うが、その赤字で訂正したものが欲しい。しかしそれは敵の手元に控えとしてとられてしまい、結局私のバカさの証拠として保存されることになる。

 今回の間違いは何だったかと言うに、例えば出発地を最寄り駅にしたことで、東京駅までJRで行こうとしたらものすごい迂回路となる。ゆえに出発地は東京駅でいい。
そして北陸新幹線の自由席を指定した以上、乗車時間も何も関係なく来た電車に乗ることが出来る。極めつけはどうやら私は上りと下りを間違えて記入していたらしい。

 こんなので果たして私の書いた原本がどんだけ残っているのかどうか。延々と訂正に時間がかかったが、助かることには時節柄「みどりの窓口」には誰もいない。列が出来る頃までには赤字訂正を入れられないようになりたいものだ。

 てなわけで北陸新幹線に乗った。初めてかもしれない。開業、いつからだ?
金沢にいた頃は小松から飛んだ気がするが、当時能登に住んでいた人は小松なんぞに飛行場があっても意味がないと言ってたから、当時は能登空港もなかった。

 毎回思うが、関東平野は広い。それでも大宮をすぎると窓外の風景は田んぼになり、高崎となれば雪を頂いた榛名山(スマホの位置情報で多分そうだと推測するが誰も教えちゃくれない)が見えてくる。

 その高崎を通って、今回の目的地は富山県魚津。
魚津と言えば蜃気楼、だがもちろんそれだけではない。富山湾駿河湾相模湾に次ぐ深さであり、海面にはホタルイカが怪しく光りながら回遊し、海の下にはぶりだの白エビだのはてはズワイガニまでがうろうろしている。
その富山湾に流れ込むのは霊験豊な立山連峰の水とくる。となれば何があってもおかしくない、ってここまで書いていいのか。

 実のところ雪を期待していた。北陸新幹線は長野を通って上越妙高駅から北陸に入る。だが長野の雪は大したことがなくて、天候といい、こってりとした雪景色が見えたのは上越妙高あたりのみ。やがて糸魚川に出て、左側にはてっぺんも見えない雪山が連なり、右側には日本海が見えた。美味しそう・・・?

f:id:PanariLab:20220313101244j:plain

 もうひとつ川を渡る。何と言う川だろうと看板が出てるのを楽しみに川岸を待つ。やがて現れた看板は反対側を向いていた。スマホがそれは片貝川ですよと教えてくれた。

 

 黒部宇奈月温泉で降りる。魚津にはここから乗り換えだが富山金沢行きにはまだ時間がある。周囲をうろついてみると松桜閣と書かれた看板があったので行ってみた。案内板には初代県知事のお家だったのを誰それが譲り受けてどうこうとあり、だが冬の間はお休みで、庭だけは入っていいらしい。

f:id:PanariLab:20220313091447j:plain

 入ってすぐどーんと大きな建物があって、何故かそれはお寺だった。その横のちっこい建物が松桜閣。雪の残る静謐な空気のなかで、暗渠でうねる用水路の水の音に取り巻く。取り残された感がある。私が。

f:id:PanariLab:20220313101612j:plain

 やって来た「あいの風とやま鉄道」の中で私はいつも通り何か面白いものをみつけようときょろきょろと左右を見る。富山である。富山と言えば一人当たりの屋根面積日本一。実際、黒部宇奈月温泉駅の近くにも大きな家はあった。
失礼ながら母屋も4部屋くらい多すぎる気がするし、離れも二階建て。離れが息子夫婦の家だとしても、母屋の反対側に水回りを作れば十分没交渉でいけそうな家だった。

 魚津駅。駅近くの小さなショッピングセンターに行ってみた。ほんの5分で行けるそこはサンプラザ。スーパーには地元の魚や、お惣菜にはフキノトウ味噌があったがどこからもって来ているのやら、富山ではまだ出ていないでしょう。

f:id:PanariLab:20220313091743j:plain

 結局友人へのお土産に越中名物とあった干菓子「雪渓」を買った。昆布の入ったお餅も美味い!不愛想な小さい棒きれみたいなパンも素朴に美味しかった。途中、蒲鉾屋のビルを見かける。明日、帰る前に除いてみることにした。

f:id:PanariLab:20220313101741j:plain

 宿のお迎えのバスは3時半。マイクロバスに乗ったのは私を含め3人。途中の民家に「りんごジュースあります」の看板が見える。そう言えば下調べによればりんご農家の庭先販売が盛んだとあったっけ。てことは面白い剪定がなされている畑の樹はりんごの木ですか!!
  
 とにかく広いお風呂があるというので予約した「金太郎温泉」。行ってみたら旅館自体大きく、宴会場もあった。しかし時節柄人は少ない。そして宿泊客は専用の風呂と日帰り温泉の両方が使えることになっていて格安プランの部屋は両方近い。それ行け!!

 夕食前に入ったのは日帰り温泉の方だった。こちらはお客さんが結構いた。室内のお風呂には普通のお風呂の他、歩行湯、エステバス、寝湯、打たせ湯など色々あり、やはり広い。外のお風呂も広いのが二つある。入り口には竹で編んだ菅笠が置いてあって、いっそ泣きたい気持ち。これを被って雪の中、露天風呂に入りたかったのよおおおお!!

 夕食は例の懐石料理で、まあ普通だった。カニは入れてくれるなと希望していたが、お安いプランだったし元々入ってなかったかもしれない。お刺身には当然寒ブリがあったしこれはというほど新鮮でおいしかったが量がね・・・。筍の煮ものが出てきて、立派に小さいそれに驚くがハテこれはどこからと聞けば熊本のものだとのこと。

 早すぎる旬に文句を言うのもおかしい。というわけで例のごとく熱燗とビールで夕食は終わった。


 二日目。起きるなり宿泊客専用の風呂に。室内のお風呂の浴槽は広いのが3つ。壁には有名芸術家の九谷焼?の壁画?のでっかいのがあるがどーでもいい。お風呂は色の濃さが違うが内容がどう違うのかいまいちわからない。ほんと宴会場かよってくらいに広いお風呂場でした。お好きな方は是非。

 食事。男子の一人旅が2組、近くに座った老夫婦が窓外の田んぼを見て「何か被せてあるね。」と話している。( それは雪ですが )「あら本当だ、真っ白くてきれいですね。雪かと思いましたよ。」いやだからそれ、溶け残りの雪だから!!と心静かにつっこみを入れる。外は雨が降っている。現地温8℃で雨が降るとは聞いてないので傘はもってきていない。

 食後、雨はやんでいた。昨日のお風呂に行く。誰もいない。昨日入れなかったエステバスとやらにこわごわ入ってみた。これがすっごい勢いのジェットバスで、あと10歳年をとってたら骨を残して肉だけ持って行かれそうな勢い。堪能しました。

 魚津駅まで送ってくれるバスが走り出すとまた雨が降ってきてしかし駅のバス乗り場にはうまい具合に屋根があるのでぬれずに済んだ。尊敬する富山湾( 変な言い方だが )の魚津水族館を見ようと思ったがお休み、埋没林博物館もお休み、冬はこんなもんかと市民バスとやらに乗って道の駅ならぬ「海の駅」を目指す。座席の前には親切にも固定資産税や自動車、介護だのの納期の表が貼られていた。これはこれで便利??

 外を見ると庭木に立派な雪つりを施したこれまた横に長い豪邸が見える。アップルヒルなるショッピングセンターがあり、サンプラザより新しい。りんご農家が多いからそういう名前にしたわけか。バスは進み、今度は梨園があり、その隣はモツ鍋屋でそのまた向かいは蒲鉾会社。

 大好きな住宅展示場もあり、その名も「みら~れ」と言う。見たい!!
変な形の家もある!!見たい!!木の家だとうたっているけれど、全然そんな感じがしない家ばかり。土地の事情と今時の家の形をどうすり合わせているのか。だが見る時間があっても大迷惑以外の何ものでもないだろうなあ・・・。

 雪山を左手にバスは走る。というか、どう走ったところで雪山の景色はついて来る。
横断地下歩道の横には雪かき用のスコップが備えてあるのが見えた。やがてバスは海側に近づき、雨は降ったりやんだりを繰り返している。流石に海辺の家は大きくない
・・いや、庭がないからそう見えるだけかもしれない。近くには日本で初めてという米騒動の地があるとバスのアナウンスが教える。

 こんなところでか?と思うのは加賀百万石と数えられる米の殆どはかつて加賀藩の中にあった富山平野が稼いだものだと聞いているからだ。何があったのやら、ああ聞きたくない聞きたくない・・・。

 「海の駅」到着。お土産と少々の野菜( 冬なのであるわけがない )や漬物など、当然カニなどの魚介類に食堂もあるが人はいない。土地の人が作った粕漬けなど買ったら、あとは駅に行くためのバスを待つのみ。映画のポスターが貼ってあり魚津がロケに使われたという。

f:id:PanariLab:20220313092109j:plain

「牛首村」ですか。普段は見ないタイプの映画だが、魚津を見た後では見てみたいようなそうでもないような。

 また雨が降り出したがそれほど強くもなく、結局傘は要らなかった。もしかして私は北陸限定の晴れ女なのだろうかと思うくらい。魚津駅ではやはり乗り換え時間があったので立派な蒲鉾屋さんを見に行った。これがまた立派な蒲鉾で!!
細工蒲鉾というべきなのか、贈答品の蒲鉾の見本品が飾られていたのである。

f:id:PanariLab:20220313102027j:plain

 何この細工!!すごーーーーーいいいい・・・というわけで写真を撮らせてもらった。きれいだけどこんなでっかい蒲鉾どうするんですか、とは都市部の貧乏くさいヤボの思うこと。
隣近所や兄弟衆、そのまた隣近所などなど分ける相手はいくらでもいるからこそ成立しているに決まっている。私はびびって普通のを買ったが、鯛の形の小さいのもあったことだし、買えば良かったと後悔している。見せびらかせたのに!
いやまあしっぽくらいはあげるかもしれないけどな。でもその前に近所やら友人やら
一回りしないといけないし、夏場だと危ういかもしれん。

f:id:PanariLab:20220313105914j:plain

 いったん富山駅に出て、そこから北陸新幹線で東京に帰るはずであったが、魚津から
富山に近づくほどに眺めは面白くなくなった。昔ならではのだだっ広い作りの家を見ようとしたらそりゃ無理ざんす。

 蒲鉾屋は富山駅の中のお土産屋さんにも支店はあった。誠に便利な駅で富山ブラックラーメンの店の前には沢山人が並んでいた。きときと寿司があることはわかっていたので自分も食べつつ夫にお土産を詰め合わせた。がっかりしたのは寒ブリが固くなかったことで。残念!

 お土産にお寿司ぶら提げて帰るという、昔の酔っ払いのパターンだったと思うが今時はどうなのか。保冷剤載せてもらって新幹線なので、いきなり悪くなっちゃうわけでもないだろう。
 
 そして北陸限定晴れ女の魔法は帰った途端にとけた。バスから降りて3分もたたないうちに雨が降って来たのである。一方、帰った翌日から北陸は吹雪となった。あの菅笠をかぶって露天風呂に入りたかった!
週間予報でも見てから予約すればよかったのかなーと思う。来年はそうする!!