ベトナム 3泊4日 おわり


 夕食に行こうとしていた。ネット情報によればベトナムでは生ビールが普通のビールより安いらしい。いかにものベトナム食で、生ビールが飲めてといえば、初日の焼ハト屋の斜向かいにある店だった。壁には生ビールを提供する「ビアホイ」とアルファベットで書かれている。
 
 しかしそこは焼きハト屋にも似てふきっさらしに低い席があって、ちょっと見、食事をしているのではなく、納屋で作業している感じ。(そう書いてどんだけの人がわかってくれるんだか???) 「二人、お願いしま~す」とうすら笑いと身振りで言えば、こっちにどうぞと隣のコーヒー店の店先に案内された。店先には低いイスとテーブルが置いてある。
 
実のところ、来る前にNHKの番組の「2度目のハノイ」ってのを見て学習していたので、お店が満席の時には隣のお店の席に案内される、というのもありだとわかっていた。なので、ああこれかと座る。夫が店の人にメニューをくれと言ったら、相手はひょいとひっこんだかと思うと別の若い男子が現れた。つまり彼がメニューなのである。英語も話す。
 
 しかしこちらは料理の名前どころか中身も発音もわからない。・・・そこでガイドブックを出して見せた。肉や野菜のページを出して指差したのである。相手は、これならあるぞ!と答える。そんじゃこれ(ひき肉をなんちゃらの葉で包んで煮たやつと、あと、青菜炒めを注文する。肉料理も美味しかったが、青菜炒めに使っている青菜は昼間市場で見たつる植物の新芽だった。なるほどこういう味だったのか。明日は帰国するという晩に、なんとかまとまった感があった。
 
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 がそこで夫が言い出すのである。「オレは豆腐が食いたい」と。ホム市場にはがっちりした木綿豆腐があった。それでまたガイドブックを出して、豆腐という単語を指差して見せたら、相手は力強くうなずいてくれて、だが到着したのは厚揚げとハーブ類と海老ラー油??
 
 確か海老ラー油だと思うのだが、それはくさやの漬け汁にも似て、渋谷のベトナム料理屋「ホアングン」(金と銀という意味で、東急本店の表玄関から右側を駅方向に見ていけば見つかるはず。お高くないのでオススメ)で注文したら、これはクセがあって普通の日本人には無理だろうからやめた方がいいと教えられたやつで。そこまで言われればひとくちくらいは味わってみなければと食べてみて、完食は出来たけど1度で十分だと思ったという体験済み。
 
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 で、ライムを添えた海老ラー油を眺めていると、コーヒー店の女主人が「何をやってんだか、これはこうすんのよ!」って感じでライムを取り、手ずから絞ってくれて、それをスプーンでがしゃがしゃと混ぜてもくれる。ベトナム料理というのはがっつりと混ぜないといけないのだと何やらに書いてあったけど、どうやらほんとみたい。
 
 そうそう、こういう味と香りだったよねえと粛々と食べる。すると女主人がまた立ち上がり、「この料理にはこれがつきものなのに、ほんっと男ときたら気が利かないわねー」とばかりに麺(そうめんみたいなやつ)を持ってきてくれて、それでまた有難くそれを加えて食べることになる。うう、お腹いっぱい。
 
 「2度目のハノイ」では、店先を貸してもらったら、何かオーダーしろと言っていたのでマジメにコーヒーをオーダーした。すると女主人、現在の低いイスから、奥のまともな席に移動してゆっくりしろと言う。白木のこぎれいなテーブル席に移るとやがてコーヒーは運ばれてきた。ホアンキエム湖の店よろしく、一口づつ味が変わるのを楽しもうとしていると、女主人がまた親切にかちゃかちゃとスプーンで混ぜてくれる。ありがとーー・・・
 
 夫は中国で、「せめてテーブルにクロスがかかっている店で食べなきゃいかんな。」と言った。これがベトナムでは、「せめてドアがある店で食べなきゃいかんな。」と変化した。この次はどう変化するのか。結局この夜のメニューの中で一番お高いのがコーヒーであった。日本では缶コーヒーにも等しい値段だが・・・まあつまりコーヒーは高級品なわけだね!
 
 向かいの鳩ヤキトリの店でビールを調達してホテルに帰る。明日は朝6時にホテルのロビーにいなければならない。スーツケースをパッキングする。中味は殆ど食べ物で一杯で、月餅などは手荷物に入れる。以前、買ったお菓子が崩れないようにと現地でタッパーまで買ったことがある。あれはブルガリアだったかハンガリーだったか、「1ユーロショップ」というのがあったのだ。
 
 朝6時。朝食時間に間に合わないので、JTBはホテルに朝食を手配してくれた。白い発泡スチロールの容器に入れてあるそれを大事に手に持って、バスに乗る。やがて初日のCクラスホテル仲間の女子大生が車にゆられてやってきた。
別に売られることもなく、ハロン湾観光を楽しんできたらしい。ハロン湾まで片道4時間、2時間走ったところでトイレ休憩があったとのこと。電気自動車ではなく一人用の座席つき自転車に乗ったりして楽しかったと言った。問題は古いお札を600円分ほどつかまされてしまったそうで、どうしたものかと思ってると。そりゃ大金だわねえ。600円で厄落とししたと思うしかないのでは?
 
 おしゃべりしながら空港に到着、期待のお弁当を覗いてみると、焼いてない食パン2枚とバターにジャム、ゆで卵1つにバナナ1本。女子大生も、全く同じだと言う。なるほどこんなもんかと納得しつつ、これでひとりくらいスペシャルAランクのホテルに泊まった人がいたら、面白かったのにと、ちょっと残念。まさか同じということはないだろうし、もちろん差額ほどのお弁当になるわけもないし。大体その人はゴージャス弁当(多分)見せてくれるものだろうか?
 
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 空港は免税品店は少なく、面白いほどみやげ物屋があった。みやげ物屋の中身は大体一緒だというのに、それが何軒も続いている。残ったベトナムのお金を使うべく、お店に入ってお姐さんに「これで買えるものを教えてくれ!」と夫が迫る。お姐さんも仕事なので、これとー、あれとー、と教えてくれる。そこにくだんの女子大生が来て、「余ったお金はどうすればー?」と聞くので、同じお姐さんに引き渡す。コーヒーが200gで5ドル。カフェではバインミーとビールで6.5ドルとあったので、これも街の3~4倍くらい??だからって、出国審査通って登場口まで来ている身の上になにが出来るというのか。
 
 とそこに「何でこんなところにいるんだ?」と後ろから声がかかった。
振り返れば、なんとそこには知人がいた。普通なら「あんたこそ何で?」ということになるのだろうが聞く必要はなかった。初日に空港でみた桜の箱をかき集めたのはこの人であり、ホアンキエム湖で見た式典がらみで来ていたのだった。日本政府もからむイベントなので、内閣参与同席とやらで毎晩肉ばかりだった、って・・・そう言われてもなあ。あたしだって「肉は食べたもん!ドアがなかっただけだもん!! 炭火で焼いていて、バイクが走り回る横で食べちゃったんだぞ?どうだすごいだろう!?」とは言わなかった。
 
 「うちは年金暮らしの夫婦のたまの海外旅行ってヤツですけど。ええ、半世紀前は自分がベトナムに行くなんて思いもしませんでしたし、ベトナム航空に乗るなんて想像もしてませんでしたよ、おほほほほ~」と、大人として辛くも話をまとめる。だってその通りだし。実際の話、半世紀前どころか40年前だってベトナムに行くなんて想像もしてたかどうか。「サイゴンから来た妻と娘」を読んだのが30年前くらいか??
 
 昭和は本当に長くて長くて、その間にものすごい様変わりがあったから、そこそこの年齢の人は、「いやあ半世紀前は・・」とやりさえすれば大抵の場合はなんとかなる。同じ年代なら、「本当にそうですねえ」でしかないわけで。どんだけ負けず嫌いでも、「いや、自分は絶対にそのつもりでした!」とは言えないはずで。50年前になかったものを数えたててみればわかる。
 
 搭乗案内が始まり、思いもしなかったベトナム航空の席に座る。これがまた狭い。いや、シートは狭くないが、ベルトの余裕が驚くほど少ないのである。先日ネットで140kgアメリカ人女子が、日本に行きたいけど日本でデブといじめられるのではないか心配で、という話を読んだばかりだが、その人なら絶対シートベルト足りない、というか100kgでも無理ではないかと思うくらい。
 
 そして機内食の器、とくにグラスが異常に小さい。こちらも余裕というものが殆どない。当然ゆれることもあるというのにこれでいいのかと思っていたら、本当に揺れて、スチュワードがワインこぼした。あわてふためいて謝る彼に「平気平気、だけどこれは器が小さすぎるよ。あっちのジュース用のグラスに入れて?」とにこやかに言うと、彼もほっとした顔で言うことを聞いてくれて、当然赤ワインも増量されたから私自身は不満はないけど。機内では飛行機と一緒に小さな容器の中で様々な飲み物がゆらゆらと縁一杯に揺れていた・・・。
 
 食事を終えてトイレに立った帰り、ゆで卵のカラとバナナの皮を見た。彼女は良く寝ていた。
                                 終わり