イタリア北部旅行 7 ピアチェンツァ近郊へ

 観光地とは何かといえば、行けばがっかりするが行かなければ後悔するところ、だ。というわけで後悔を和らげるべく我々は、ピアチェンツァ近郊の城に向かって出発しようとしていた。朝食の間にはお姉さんが控えていて、色々お世話してくれる。もう一杯カプチーノを出してもらおうとして、「シニョリーナ?」と聞いたらお姉さん、ぴょんと飛んだ。

 ・・挨拶は当然、呼びかけの言葉は毎回調べて行かねばならない。スペイン語ならセニョーラ、セニョリータ。男子ならセニョール。おっさんだろうが爺さんだろがセニョールでいいが、女子は区別しないといけなくて、シニョーラにセニョリータと言うと確実にイヤな顔をされる。シワはない方がいいが、結婚はしていた方がいいらしい。この朝の場合はいきなりイタリア語で呼びかけられて驚いたわけなのだが。白人から「お姐さん!」と日本語で呼びかけられたら私だって一瞬驚く。

 目的のアガッツアーノ城までのバスの時間は案内所のお姉さんから時刻表をプリントしてもらっていたので大丈夫。 バスセンターはローマ通りをひたすら直進、途中から標識を頼りに進むことになる。もちろんイタリア語で書いてあって、はてバスセンターって英語?

 チケット売り場はバスセンターの裏側にあった。お姉さんからチケット(確か6ユーロだったと夫は言う)を買い、50セントでトイレも使い、始発だというのに遅れてきた1時間に1本しかないバスに乗った。10分ほどまでは郊外の風景だったが15分過ぎたら田舎の風景になった。時折教会が見えた。
 
 この場合の田舎は旧市街とは違うという意味だ。例えば家は一戸建てで、1軒の大きな建物を何世帯かで分け合っているわけではない。その家も割と新しい。庭も広々として、家の中は便利に作られていそう。
 
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 終点に到着すると目の前には教会、右側には休館日の城、その向こうにはなだらかな丘が広がっていた。ここの城は平原にあり、見たとたんに城と宮殿の違いがわかった感じ。首里城とバッキンガム宮殿は宮殿だが、姫路城は宮殿ではなく、二条城はまたちょっと違う、みたいな。
 
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 休館日なので、当然入れない。外から見るのみだが、宮殿は結構見てきたので、なんーとなくわかる。宮殿からグレードダウンした、「そこそこ」立派な調度品とか「そこそこ」な画家に描かせた先祖の肖像画群なんかが飾られているんだろうなー、と。ミもフタもなさすぎ?

 田舎道を進んで見ると村のゴミ集積所があり、その横には大きなプラムの木、その下を小川が流れていた。道の反対側の家の庭には植えてからそう時間が経ってない八重咲のキョウチクトウ、その横のプラムの木にはペットボトルで作ったスズメバチ用のトラップが仕掛けられており、見事4,5匹ひっかかっていた。 
 
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 道を戻り住宅街(元・村落?)の方に歩いてみるとレストランもカフェもあり、お城関連の商売か。給水所があり、無料トイレがあり、やれありがたや。
中心部から離れてみるとやはり郊外、と言った方が正しく、家1軒分はうちの4軒分の敷地はあっても農地はなく、あっても家庭菜園。

 あまり植物に興味がない家では広い芝生、あるべき場所にコニファー植えて、アジサイやバラでちょこっと彩りをつけて「ろくに手をかけなくても長く咲いてくれるから嬉しいわあ。」とか言ってる雰囲気。真剣に家庭菜園やってる家ではワイン用のブドウを仕立て、その株の間にはズッキーニにネギ、その上からプラムが覆いかぶさっていた。
 
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 このあたりはなだらかな平原になっていて、反対側の丘にはブドウが行儀よく並んでいるのが見える。その横の大きな家は多分ワイナリーだろうなあ。こんな広々した景色を見ながら暮らすのはどんなものだろうかとうらやましい。
 
 時折、鶏の声が聞こえてくる。そちらには公園があったので夫、休憩。私は鶏を見に行く。公園となりの家の庭を覗くと、ニワトリが寄ってきた。バッグからパンやクラッカーを出して放ってやると争ってついばむ。
 
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 このパンはなんとアリタリア航空の機内で出たもので、必要なこともあろうとバッグに入れてあった。生産されてから7日めのイエスの肉はありがたく鶏のお腹におさまったわけで、しかしまあ何だ、どこ行っても私は動物にエサをやっているな。
 
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 バスの時間に合わせて村の教会を見物、それからバスに乗って同じ道を通ってピアチェンツァに、いったん部屋に帰った。さて見逃したものはないか。明日はアスティに移動するわけで。それで、「田舎の聖母マリア教会」に行くことにしたのである。
 
 しかし日は未だ高く、そのうえ「田舎の」というだけあって30分も歩かされた。ピアチェンツァなんぞ小さい街だからと侮っていたが、旧市街の端から端まで歩くとそういうことになる。しかしそれでも行っただけのことはあった。フレスコ画から何から、建築家円熟期の傑作とあったが細部に至るまで美しく、変な言い方だがこれは間違いなく女のための家だった。
 
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 ピアチェンツァ最後の夜だというのに疲れていた。もちろんお腹も減っていた。レストラン選びが面倒くさい。面倒くさいけどへんなもん食べて終わらせたくないし、やっぱりちゃんとしたもの食べたい!!というわけでなぜか表参道とローマ通りの間にあるスペイン料理の店に倒れこむようにして入った。
 
 「ぶえなす のーちぇす、せにょーる?」と言って入ったら相手はイタリア語しかできないことが判明。ごめん、余計な恥かかせちゃって。もちろんメニューはスペイン語で書かれていて、その下にはイタリア語で翻訳してあった。なるほど。
 
 とにかく水!それからビール飲んでワインなわけだが出来ればピアチェンツァのワインがいい。しかし発泡性のワインはイヤなんで、このワインは大丈夫なのかと聞いたら相手はなんとグラスに1杯づつ入れてきた。どれどれと飲んでみたがなるほど一番安いのは安い味で2番目に飲んだのはそれよりマシだがやはりいまいち。Primitivoと書いてある、多分地元に昔からある原種っぽいブドウで作っただろうやつがあるから、3ユーロやそこらお高くてもこっちにしようということになった。
 
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 落ち着いて周囲を見回すとスペイン料理だけあってスペインのもので飾られている。テーブルに乗っているのはダリの絵が印刷された紙のマットで、持って来たお皿は赤と青。
このお皿は欲しいと思った。ついで、これを使うためにほかの道具立てを整えるためにまず、クロスは青にするとしてカトラリーは新調しないといけなくて、それで上に載せる料理は(あ、そんな生活してないですからね念のため。考えただけです。)と考えているうちにパンと生ハムが来た。
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 それで皿のことなんてぶっとんだ。うっひゃああ久しぶり!美味しい!!イタリアのは生っぽいが、スペインのはカツヲブシっぽい。日本ではあまりお目にかかれないせいで忘れていた。ワインも試飲より全然美味しかった。
 
 注文したのはエビ、牛フィレ、付け合わせは卵と野菜を煮たもの。いずれも美味しくてもしかすると私はイタリアよりスペインの方が合っているのかもしれない。
 
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 お勘定して帰ろうとしたら、ワインを1本、紙袋に入れてくれた。は?なんでくれるの?いいの?知らないわよ返せと言ったって。返さないったら返さないんだからね~!と小芝居つけて喜んで見せたら向こうも笑って「ツーリスモ?」「シ!」って、うれしいんだけど、明日は来ない旅行者にこんなのくれてどうすんの。
 
 何故かアスティのホテルでは地元のワインを1本プレゼントしてくれることになっていた。そんなの何時飲んだらいいのか。なのにまた1本。「どうすんだこれ?」と部屋で二人で言い合った。
 22000歩。